語る者たち
今日は快晴です。
今日も世界が涙を、あるいは笑いをかもしれませんが、堪えて震えています。
雪子はつつじの花の蜜を吸います。
それを、春樹は眺めます。
彼も同じことをします。
ふたりは「おいしいね」とほほ笑みあいます・
「こんなことしたの中学生ぶりかしら(微笑)。」
「たしかに!それ位だよね~。」
とっても幸せです。
今日は初めての〈初めてキスした記念日〉です。
二人は、昨年のこの日の夜に食べたお店に行きます。
決して高級なお店ではありません。
彼が、彼女がそばにいてくれる幸せを改めて感じます。
もう空は暗くなります。
周りの家の灯りは何かに抵抗するように、淡く寂しそう、街灯は何かを咎めるように、硬く鋭く、ぼくは何かに怯えるように、透明でささやか。
二人には互いに秘密があります。
春樹は一週間後から少なくとも二年間ドイツ本社で働くことが二週間ほど前に決まります。急に飛び込んできた出世するチャンスです。
まだ雪子に言い出せずにいます。
雪子は春樹の子をその身体に宿していることを、先日病院へいって検査して知ります。
雪子は来週の彼の誕生日に伝えようと思います。
彼は当然結婚しようと言ってくれると雪子は思います。
三日後、春樹は初めてキスをした日に行ったあのお店に雪子を誘います。
雪子は〈初めてキスをした記念日〉でもないのに、なぜそこに誘うのかわかりません。
そうはいっても、雪子は喜んで誘いを受けます。
春樹は思い切って語り出します。
「あのな、おれ来週の火曜日の朝の飛行機に乗って、ドイツまで行かなきゃならなくなっちゃったんだ。たぶん、短くても二年は帰ってこれないし、実際いつまでかかるか今のところはわからないんだ。でも、最初で最後かもしれない出世するチャンスなんだ。ごめん。こんな急になっちゃって。ほんとはもっと前に決まってたんだけど、なかなか言い出せなくて。あのな、でもおれゆきりんのことほんとに好きだから、だから、待っていてくれないか。今よりもずっと偉くなって、そしたらここよりもずっと高いお店に連れってやるんだ。」
雪子は曖昧な表情を浮かべます。
何かに気づいたように、だけど何かを捨て去る覚悟を決めたように、危うい光を瞳に燈らせて、雪子は語ります。
「わた
お母さんがもう寝なさいと言いに来ました。
このDVDは返却期限までにはまだ三日あります。だから、焦る必要はありません。ぼくは潔く眠りにつくことにします。
The end.
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