創作 小説

必罰

神様が、明日からはどんなに些細なことでも、悪いことをする者は遍く死の罰を与える、と決心なさいました。

 七日後、神の罰で死んでしまう人はすっかりいなくなりました。

 死ぬ者がいなくなったという話をサマエルから聞いた大天使ルシフェルは、そのことを神様に伝えに行きました。すると、神様はいらっしゃいませんでした。

 そこで、ルシフェルは自ら神にならむと思いました。

 しかし、罪びとはもう地上にいません。ルシフェルは閑暇を持て余しました。

 そこでルシフェルは地へ降り、人間を観察しに行きました。

 すると、人間がいません。

 そうです、人間も神もいなくなってしまったのでした。

 

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とある木の一生

わたしはとある種。お姉ちゃん、弟、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、おじちゃん、おばちゃんたちが残してくれた葉っぱたち、ミミズさん、ダンゴムシさん、ワラジムシさん、ゲジゲジさん(わたしが言うのも変だけど、おもしろい名前でしょ。この前笑ったら怒られちゃった。『俺の名前は「ゲジゲジ」だけど、俺はゲジゲジじゃない。それに俺は「虫」じゃないし、「脚がいっぱいあって気持ち悪いもの」でもない。俺は「俺」ですらない。俺はいかなる俺以外のものとも違う。それが俺だ。お前もそのうちわかる。』だってさ。なんだかよくわからないな)、蟻さん、いも虫さんとかがふかふかにしてくれた葉っぱの毛布に包まれ、キリギリスさんや鈴虫さんやセミさんたちの演奏に耳を澄ましたり、ちょっとマズイ水を飲んだりしながら、過ごしてきた。

 そろそろ殻がきつくなってきた。

 でもここから出たらもうみんなの話を聞けなくなっちゃうらしい。もっとみんなの話を聞いていたいなぁ。

 わたしの「外」は冷たかった。

 隣の同い年の子よりも、弟よりも、おじいちゃんよりも、もっと栄養を。

 根を張り、枝を繁らせた。誰よりも大きくなった。

 だって、誰よりも一生懸命に生きたから。

わたしの子どもたちが旅立っていった。あの子もどこかで、わたしのように元気に育ってくれるかしら。自慢の子どもたち。

 最近どうも息苦しい。空気も、土の中の養分も、うまく吸えない。どうも昔よりもさらにまずくなった。これじゃ光合成もうまくいかない。もう歳なのかしら。

 最近わたしの周りを人間たちがよく見に来る。

 傲慢なあの、神の創った欠陥生物。どうも老いたわたしを保護しようとか計画しているらしい。大切な自然木だとか言っている。わたしはお前らの言うような「自然木」などではないわ。わたしはこうして生きている一つの生命。

 わたしの周りに柵がつくられた。だがもう遅いわ。自分のことは自分が一番分かっている。わたしはもうすぐ根元が腐って倒れて、カブトムシの幼虫やキノコのお宿となるの。

 わたしの生涯も短いものだったわ。人間に比べたら随分長いだろうけど、いくら生きたって、しょせんわたしたちは大きな河の流れにむすびては消える泡のようなもの。

 まぁ楽しかった。わしの人生はきっとみんながうらやむものだったわ。この土地で一番の長寿にして一番の巨木。

 ところで、わたしの子どもたちはいったいどうしているのかしら。あの子は立派な幹に大きな葉を繁らしているだろうか。あの子はちゃんと子どもを授かっただろうか。あの子はきれいな花を咲かしているだろうか。

 あの子たちには、話を聞いてくれる相手がいるのだろうか。

 願わくは、あの子たちに、普通の幸せを。

 わたしは死んだ。いも虫さんや、ダンゴムシさんや、ゲジゲジさんや、蟻さんや、ミミズさんたちはわたしにやさしく語りかけてくれた。

 「ぼくらと一緒に話さないかい?」

 いつかわたしはバラバラに朽ち果て、溶け、みんなの一部になった。

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語る者たち

 今日は快晴です。

 今日も世界が涙を、あるいは笑いをかもしれませんが、堪えて震えています。

 

 

 雪子はつつじの花の蜜を吸います。

 それを、春樹は眺めます。

 彼も同じことをします。

 ふたりは「おいしいね」とほほ笑みあいます・

「こんなことしたの中学生ぶりかしら(微笑)。」

「たしかに!それ位だよね~。」

とっても幸せです。

 今日は初めての〈初めてキスした記念日〉です。

二人は、昨年のこの日の夜に食べたお店に行きます。

決して高級なお店ではありません。

彼が、彼女がそばにいてくれる幸せを改めて感じます。

 

 

 もう空は暗くなります。

周りの家の灯りは何かに抵抗するように、淡く寂しそう、街灯は何かを咎めるように、硬く鋭く、ぼくは何かに怯えるように、透明でささやか。

二人には互いに秘密があります。

春樹は一週間後から少なくとも二年間ドイツ本社で働くことが二週間ほど前に決まります。急に飛び込んできた出世するチャンスです。

まだ雪子に言い出せずにいます。

 雪子は春樹の子をその身体に宿していることを、先日病院へいって検査して知ります。

 雪子は来週の彼の誕生日に伝えようと思います。

 彼は当然結婚しようと言ってくれると雪子は思います。

 三日後、春樹は初めてキスをした日に行ったあのお店に雪子を誘います。

 雪子は〈初めてキスをした記念日〉でもないのに、なぜそこに誘うのかわかりません。

 そうはいっても、雪子は喜んで誘いを受けます。

 春樹は思い切って語り出します。

 「あのな、おれ来週の火曜日の朝の飛行機に乗って、ドイツまで行かなきゃならなくなっちゃったんだ。たぶん、短くても二年は帰ってこれないし、実際いつまでかかるか今のところはわからないんだ。でも、最初で最後かもしれない出世するチャンスなんだ。ごめん。こんな急になっちゃって。ほんとはもっと前に決まってたんだけど、なかなか言い出せなくて。あのな、でもおれゆきりんのことほんとに好きだから、だから、待っていてくれないか。今よりもずっと偉くなって、そしたらここよりもずっと高いお店に連れってやるんだ。」

 雪子は曖昧な表情を浮かべます。

 何かに気づいたように、だけど何かを捨て去る覚悟を決めたように、危うい光を瞳に燈らせて、雪子は語ります。

 「わた

 

お母さんがもう寝なさいと言いに来ました。

 このDVDは返却期限までにはまだ三日あります。だから、焦る必要はありません。ぼくは潔く眠りにつくことにします。

 The end.

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